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バームの目付きが変わった。
子供が拗ねるような目でもあり、軽蔑するような眼差しだ。
子供は遊びを楽しむ。
だから、いつも本気だ。
負けたら潔く諦め、勝ったら喜ぶ。
その間に、文句などない。
そう言われ、ミュシルは小さく溜め息を吐いた。
そして、両手を広げる。
「分かった。我の敗けだ。約束通り、何でも言うことを聞こう」
「おい、ミュシル!」
「ただし、好きにしていいのは我だけだ。後ろの男は関係ない」
「何をワケわかんないこと言ってるのかな? だって、そのお兄さんもお遊びに参加したでしょ?」
「いいや、参加したのは我だけだ。こいつは参加していない」
「………んー。まぁいいや。それじゃぁ、お姉さんの魂を、貰うね」
バームはふわふわとミュシルに近づいてくる。
ナナシはたまらず、二人の間に割って入った。
「何のつもり? お兄さんは関係無いから、そこをどいてよ」
「そうだ。そこをどけ、ナナシ」
突き放すような冷たい言い方。
まるで、自分のことのように言ってる。
確かにミュシルにとっては自分事で、ナナシは他人事だ。
だが――
「言ったよな。俺はお前のそう言ったところが嫌いなんだっ、て。少しの間だったが、お前とは旅をした。仲間の魂を奪われるのを黙ってみてられるかよ!」
「…………はぁ。馬鹿者」
溜め息と謗(そし)り。
しかし、悪意は感じられない。
怒りも、叱りも感じられない。
呆れたような、馬鹿にしたようなものとも違う。
まるで、喜んでいるような感じがする。
そしてミュシルは耳打ちをする。
「ナナシ。お前はもう一回かくれんぼに参加して、この館から出ろ。お前なら、このかくれんぼに勝てるはずだ」
「おい、何を――」
「いいか。どんなときも、冷静さを失うな」
「ミュシ――」
ミュシルの名を呼ぶ前に、ミュシルは風の魔法でナナシを吹き飛ばし、前に出た。
「さぁ、今のうちだ!」
「はいよ!」
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