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バームの手が、ミュシルの胸に突き刺さった。
「ミュシル!」
ナナシの叫びと同時に、ミュシルの体の中から白い球体が引きずり出された。
あれが魂なのだろう。
魂を引き抜かれたミュシルの体は、ゆっくりと倒れていく。
ナナシは痛む体を無視し、ミュシルに駆け寄り体を抱え起こす。
呼吸はあるが、生気を感じられない。
「生きてる……のか?」
「生きてるよ。生き物としては」
バームは魂を手で弄びながら、今のミュシルの状態について説明する。
「魂を引き抜かれても、生き物としては生きられるんだ。けど、ずっと眠ってる状態からは抜け出せない。栄養を投与し続ければ生き続けることはできるけど、魂が戻らないと目覚めることはないよ」
「だったらその魂を返せよ!」
「ヤダよ。遊びで勝って手に入ったんだから、ボクの物。だから、返す道理なんてないよ」
「お前――!」
魔法でバームを攻撃しようとしたところで、ナナシは手を止めた。
ミュシルに言われた言葉を思い出したからだ。
――どんなときも、冷静に。
ナナシは深呼吸をし、怒りを心の奥底へ押し込む。
ミュシルは、かくれんぼに勝てと言っていた。
ナナシなら勝てる、とも言っていた。
つまり、ナナシに勝てる要素をあの会話で見つけたことになる。
このままかくれんぼに挑んでも勝てる見込みはない。
少しは考える必要がある。
「おい、お前ら……」
「何かな?」
「今から十分後に、またかくれんぼで勝負だ。勝敗の景品は、お前らが勝てば俺の魂を――いや、命をやる。俺が勝てば、何でも言うことを聞け!」
「ふふん。そんなにお姉さんの魂を取り返したいんだ……。もしかしてお姉さんのことが好きなの?」
「茶化すな。俺はただ単に仲間を救いたいだけだ」
「あははは! 分かったよ! それじゃぁ十分後にこのロビーで!」
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