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激しく唸る様なエンジン音が車内に響いている。
小室崎由香(こむろざき ゆか)は助手席にもたれ掛かったまま、首を右に傾げて眼前に広がる夕景色を見ていた。
昨今の都市開発により急激に現代的な都市へと変貌しつつあるソフィアは、歴史的な建造物の残る中心街よりも郊外に向かうほどモダンなデザインで真新しい高層階の建物を多く目にする様になる。
そしてそのエリアは今も尚休む事なく広がり続けている。
しかし更にそこを過ぎると景色は一変した。
突然、由香の目の前に開けたのは何処までも続く昔ながらのブルガリアの田園風景だった。
その単調な田舎景色の連続に胸の裡で張り詰めていた緊張の糸が少し弛んだのだろう、由香は一寸の間眠りに落ちた。
そしてその短い眠りから覚めた由香の目に飛び込んで来たのが、まるで別世界の様に色艶やかなこの夕景である。
由香は何も考えず、ただぼんやりとこの翳り行く僅かなひと時に浸っていたかった。
陽が沈みゆくまでの刹那に起きる昼から夜への交代劇は音もなく進む。
由香は体を残して意識だけが次第に異郷の夕暮れの中へと溶け込んで行く様な気がした。
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