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気がつけば…
更に陽は傾いていた。
茜色に染まる西の空を背に、由香とウール エルデンの乗った青いボルボはより翳りの深まってゆく東空へと速度を速めた。
ぽつんと夜の海に浮かぶ孤島の様に路面をオレンジ色に照らし出す道路照明灯以外、灯りらしい灯りもなく車内は既に深い紫色に翳りつつあった。
運転しているウールの横顔も口元が仄かに見えるだけで、頬から上は夕闇の中にあってその影すら判別出来ない。
窓の外では日没前の最後の光が、まるで大きな紫色のベールで覆い尽くしているかの様に、誰も居ない田園風景の隅々までを夕暮れの色に染めている。
時折、すれ違う対向車のヘッドライトが眩しく、そして何処かもの寂しかった。
悠久の大地に日が沈む。
遥か彼方の濃紺に染まる西空の袂には、連なる山々の稜線が朧気に白く滲んで見えた。
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