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鬱蒼としげる暗い森の中、一人駆け抜ける。
今まで着ていた旅人服は既にボロボロになっており、手にした杖は無残に歪み、かばんの中も必要な物を次々と詰め込んだものだから、どうなっているのか想像もしたくもない。
「森だ! 追え!!」
騎士の怒号が響く。
息も絶え絶えになり、体の節々が休息を求め悲鳴を上げる。歯を食い縛り足を殴り付けた痛みにより感覚を取り戻す。
手足が痺れ始め、その瞳は焦点が合わなくなりだした。
……血を流し過ぎたか。
既に痛みもなくなった左肩の矢傷を見て呻く。
仕方なく木の影に飛び込み一瞬呼吸を整える。
……クソッ! 動け。
呪うように心の中で呟く。
「ロックだ! ロックを放て!!」
翼を広げれば20メートルになるであろう、巨大鳥ロック。比較的知能も高く人間とも協力し、太古より人類の友とされる。
その飛行能力も非常に高く、その並外れた視覚により獲物を仕留めると言われている。
「……クソ。ロックだと? あいつら、是が非でも俺を逃がさないつもりだな」
そんな悪態をついていると突如、体から光が溢れ目の前に収束し形を持った。
そこに現れたのは、小柄な少女だった。
この少女は俺の使い魔兼疫病神のレイだ。
確か光のマナであるエリクシールだったはずだ。
……無論、こいつからはそんな神聖なものは微塵も感じないが。
今も嫌味なほどニコニコしながら、
「おお! ご主人! これが絶体絶命ってやつですね!?」
そんなことをほざいてくる。
「解ってるなら黙ってろよ!」
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