第1話 没落華族 ―睦月―

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どうやら姉は隣の部屋に閉じ込められたらしい。 外側から鍵をかけられたらしく、 「お父様、開けて! 嫌よ、私は東雲にお嫁になんか行きたくない!」 と泣き叫びながらドアを叩き付けていた。 ああ、どうして隣の部屋なんかに閉じ込めるのか。 どうせなら、奥の部屋に閉じ込めたらいいのに。 ――五月蝿くてかなわない。 そんなことを思っていると、乱暴にこの部屋のドアが開けられ、息が上がった父が目を向いて飛び込んで来た。 上等のスーツ姿に整えた口髭という出で立ちは、いかにも文化人気取りで滑稽に映る。 「今、弥生を隣の部屋に閉じ込めて来た」 肩で息をしながらそう告げる父に、 「分かってますよ」 と無表情でそう答える。 「まさかと思うが睦月(ムツキ)、逃がすような真似はするまいな」 「僕が? ……そんな面倒なことはしませんよ」 「弥生は我が間宮家を救う最後の希望なんだ」 「分かってますよ」 分かっているから、早く出て行って欲しい。 そんな空気を全開にしながら書に目を通す。
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