第1話 没落華族 ―睦月―

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「お父様、出して!ここから出して! あの人に会いに行きたいの!」 泣くように叫ぶ姉の声。 長い間聞いていたら、慣れて来るものなんだろうか? 古い屋敷だ。 ドアを叩き付ける振動が伝わってくる。 姉の嗚咽さえも、まるですぐ側で聞いているかのように―――。 「……睦月、そこにいるんでしょう? お願い、私をここから出して。 もう二度とこの家に戻らないから。あの人と遠くに逃げるの」 ヒクヒクと泣きしゃっくりを上げながら、そう漏らす。 彼と逃げるって? そんなことが本気で出来ると思っているなんて、馬鹿馬鹿しい。 もし逃げられても、すぐに連れ戻されるのが関の山。 いかにもお嬢様的な手前勝手な発想だ。
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