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「ある日、まだ齢若い彼女に唐突に縁談の話が来た。佐和と親しくする姿を見た僕の両親が心配しての策だった。
金持ちとの縁談話に彼女の両親は浮かれ沸き立った」
「それでお前は?」
「嫁入りする前日に、佐和は僕のところに来たんだ。
握り締めた手紙を何も言わずに差し出して、僕が受け取ったと同時に泣きながら、走り去った。
その手紙には、とても綺麗な字で僕への感謝の言葉と、最後に『好きでした』という文字。
ああ、文字の読み書きが出来なかった佐和がこんなに美しい文字で、手紙を書けるようになったんだなと思いながら……」
そこまで話して、両の目から涙が零れ落ちた。
「その時、初めて僕は彼女を愛していたことに気付いた」
気付いたときには、何もかも手遅れで……。
それでも、手紙を目にした時点では間に合ったかもしれないのに、動くことも出来ず、無情に過ぎた時間。
時が経つほどに、ただ、自分を責めて苦しむことしか出来なかった。
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