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父の姿が見えなくなった後も、しばらくパーティに参加していると、この家の当主・綾部氏が姿を現した。
スーツ姿に口髭の中年の男性。
父と同じようなスタイルながらも滲み出る気品は、父とはまるで別世界のものだった。
「琢磨君、今回の仕事は本当に素晴らしかった。
あんなに美しく訳してくれるとは感激だったよ」
そう言って嬉しそうに目を細める綾部氏に、琢磨もそれは上品な笑みを返した。
初めて庭園で出会った時の、あの笑顔だ。
爪の先まで上流階級の匂いをさせる振る舞い。
暴君で性悪だが、こうした気品漂う面も持ち合わせている。
それは彼の複雑な生い立ちがそうさせたのだろうか?
一歩下がったところで観察していると、
「あの仕事は彼が」
と、こちらを見た。
すると綾部氏は目を輝かせながらこちらを見て、「彼は?」と琢磨に確認する。
「間宮氏の長男、睦月君です。
今、仕事を手伝ってもらっていまして」
「君が間宮君のところの長男か。
公の場に出てこないが、素晴らしく優秀で美しいという噂だけは耳に届いていた。
いや、噂以上の美少年だ。
英語は得意なのかい?」
目尻を下げながら、そう尋ねる。
「得意というほどではありませんが、多少は」
そう告げると、そうかそうか、と彼はしきりに嬉しそうに頷いていた。
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