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何も言わずにいると、彼は楽しげに笑みを浮かべたまま使用人達を見た。
「皆、驚いただろう?
我が東雲家に来た弥生殿は、男だった。
東雲弥生は『事情』により、うちに入ることが遅れることとなり、その時間稼ぎにそっくりな弟が女装して来てくれたというわけだ。
彼の本当の名は、睦月。
間宮睦月だ」
ハッキリとそう言った琢磨に、使用人達は流石に動揺を隠せずザワザワと騒ぎ出した。
「こんな侮辱はないと思ったが、真摯に許しを請うた彼の姿勢に免じて許そうと思った。
本物の花嫁・弥生殿が来るのを待つとしよう。
そして、大変優秀な彼にはそれまでの間、自分の秘書を務めてもらいたいと思う」
手を組んだまま、微笑んでそう言う。
その言葉に、思わず力が抜けるような気がした。
助かった。
―――自分も、そして間宮家の将来も助かったのだ。
胸を撫で下ろすような気持ちで深く息を吐いた。
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた自分に、琢磨はただ不敵な笑みを返した。
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