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「それでは僕はここで」
こちらの姿を確認するなり、自分はもう用済みだといわんばかりに立ち上がりかける睦月に、綾部氏は慌てて手を上げた。
「今日は君にも用があったんだ、睦月君」
その言葉に鎮静化した胸が再び騒ぎ出す。
「睦月に何を?」
それでも笑みを浮かべながら一人掛け用のソファーに腰を掛けると、
「個人的なお願いで申し訳ないんだが」
と綾部氏は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
その様子に、間違いない、と息を呑んだ。
この中年男は睦月を見初めたのだ。
目眩がするような慟哭の中、チラリと横目で睦月を見ると変わらぬ平静な顔で綾部氏の次の言葉を待っていた。
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