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「恥ずかしながら僕はルイス・キャロルの児童文学『不思議の国のアリス』が大好きでね。
ワクワクするような展開とその発想がたまらない。
ただ、どうも堅苦しい和訳が気になってならなかったんだ。
先日の睦月君の手紙の和訳の美しさを見たとき、ぜひ、この和訳を君にお願いしたいと瞬間的に思ってしまって。
あ、いや、これは本当に個人的なことだし、大変なことだということも分かってる。
謝礼もそれなりにするつもりだが、無理にとは言わない。
駄目で元々で頼んでみたいと思ってね」
余程、恥ずかしいのか頬を紅潮させたままそう告げる彼に、睦月は表情を変えぬままパラパラと確認するようにページをめくり、
「分かりました。いいですよ」
と綾部氏を見た。
「本当かい?
嬉しいよ、睦月君、ありがとう」
「僕も原文を読むのは初めてなので、楽しみです。
ただ、素人翻訳になりますが」
「ああ、君の解釈で自由に描いてもらって構わない」
「そう言って頂けると気が楽ですね」
「楽しみにしているよ」
心底嬉しそうな顔をする綾部氏の姿に、こちらは力が抜けるような気がした。
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