第四話 背徳 ―琢磨―

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―― ―――― ――――― 「児童文学とはいえ、一冊の本の翻訳ともなれば、結構な労力だろう。 理由をつけて断っても構わなかったのに」 綾部氏が帰った後も応接室に残り、アリスの原文を読み耽る睦月を眺めながらそう告げると、 「この程度の量なら、そう時間はかからないし、翻訳は嫌いではないことに気がついた。 君のお陰だな」 サラリとそう言って小さく笑みを見せた。 滅多に表情を変えない彼の美しい微笑みに、目眩がする。 「しかしあの時は、綾部氏がお前を見初めたのかと思ったな」 クツリと笑ってそう告げると、睦月は露骨に眉を顰めた。 「君が僕に欲情するからと言って、他の男もそうだと思うのは具の骨頂だな。 少し思考回路を正常に改めなけば、君は恥をかくぞ」 切り捨てるようにそう告げる睦月に、まるで発火するように顔が熱くなった。 「……随分な自信だな」 思わずそう告げると、 「自信?事実を言ったまでだ」 と、また本に目を向ける。
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