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「児童文学とはいえ、一冊の本の翻訳ともなれば、結構な労力だろう。
理由をつけて断っても構わなかったのに」
綾部氏が帰った後も応接室に残り、アリスの原文を読み耽る睦月を眺めながらそう告げると、
「この程度の量なら、そう時間はかからないし、翻訳は嫌いではないことに気がついた。
君のお陰だな」
サラリとそう言って小さく笑みを見せた。
滅多に表情を変えない彼の美しい微笑みに、目眩がする。
「しかしあの時は、綾部氏がお前を見初めたのかと思ったな」
クツリと笑ってそう告げると、睦月は露骨に眉を顰めた。
「君が僕に欲情するからと言って、他の男もそうだと思うのは具の骨頂だな。
少し思考回路を正常に改めなけば、君は恥をかくぞ」
切り捨てるようにそう告げる睦月に、まるで発火するように顔が熱くなった。
「……随分な自信だな」
思わずそう告げると、
「自信?事実を言ったまでだ」
と、また本に目を向ける。
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