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この書斎の窓から、青紫の東雲草が咲き誇っているのが見える。
当たり前の光景に今まで気にも留めなかったが、あの時、漏らした睦月の言葉に意識がいくようになった。
決して珍しい花ではないが、改めて見ると、その深い青紫が冴えるように美しく見えた。
“僕にとって『恋愛』は君の言う『東雲草』のようなものなのだろう。
憧れ焦がれながら、嫉妬し眩しさに目を背け続けている”
差し込む眩しい満月の光の中、涙を零しながらそう漏らした睦月。
その横顔も、そして口にした言葉も、例えようもなく美しく、胸に何かが迫る。
「旦那様?」
物思いに耽っていた自分は、使用人の言葉にハッとして顔を上げた。
デスクの前にはタキシード姿の使用人が書類を手に、伺うようにこちらを見ていた。
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