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「そして弥生様は坊ちゃんに会いたいと申されまして」
そう告げたばあやに、小さく頷いた。
「事情は分かりました。
姉さん、もう泣くのはやめましょうか」
そう言ってポケットからハンカチを取り出し、姉の涙を拭った。
泣き腫らした真っ赤な目が小さな子供のようで愛らしくもあった。
「……私、恐ろしいと噂される東雲の元にはどうしても行きたくないわ」
しゃくりあげながらそう告げる姉に、柔らかく微笑んだ。
「姉さん、僕は東雲の屋敷に今までいました。
東雲の当主が恐ろしく醜い男というのは真っ赤な嘘で、驚く程に美しい男でしたよ。
屋敷は鹿鳴館を思わせるそれは立派な洋館で、手入れの届いた庭が美しく真っ赤な薔薇と、真っ青な東雲草が咲き誇る夢のようなところです」
そう告げると姉は目をぱちくりさせて、こちらを見た。
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