第四話 背徳 ―琢磨―

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「そして弥生様は坊ちゃんに会いたいと申されまして」 そう告げたばあやに、小さく頷いた。 「事情は分かりました。 姉さん、もう泣くのはやめましょうか」 そう言ってポケットからハンカチを取り出し、姉の涙を拭った。 泣き腫らした真っ赤な目が小さな子供のようで愛らしくもあった。 「……私、恐ろしいと噂される東雲の元にはどうしても行きたくないわ」 しゃくりあげながらそう告げる姉に、柔らかく微笑んだ。 「姉さん、僕は東雲の屋敷に今までいました。 東雲の当主が恐ろしく醜い男というのは真っ赤な嘘で、驚く程に美しい男でしたよ。 屋敷は鹿鳴館を思わせるそれは立派な洋館で、手入れの届いた庭が美しく真っ赤な薔薇と、真っ青な東雲草が咲き誇る夢のようなところです」 そう告げると姉は目をぱちくりさせて、こちらを見た。
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