第五話 月光 ―琢磨―

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大崎に向かい、佐和が嫁いだとされる町工場(こうば)から少し離れたところに車を待機させ、徒歩で向かった。 長い煙突が建ち並び煙を出す光景と、賑やかな町人の姿が目に入る。 美しくはないが、勢いと活気に満ちた町。 「あそこが、その機械工場だな」 ここから見える古く大きな工場を指した瞬間、十才前後の少女が真っ赤な浴衣を着て、建物から笑いながら飛び出す姿が目に入った。 その少女に続いて、温和な顔立ちの妊婦が少女を追い駆けるように姿を現わし、 「ほら、あやちゃん! その浴衣はまだ仮縫いだから待ってちょうだい」 と声を上げた。
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