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庭の東屋で本を読んでいた彼は、自分の謝罪に対し、ゆっくりと本を閉じてこちらを見た。
視線に鋭さはなく、
「良かった、君が自分の非を認めてくれて嬉しいよ。財閥家の当主として、こらからもこの家を護って行きたいならば、どうか自分の下で働く者に思いやりを持って欲しい」
と柔らかく微笑んだ。
その美しい微笑みが嬉しくて胸を熱くさせながらも、
その時、睦月が本気で怒っていたのではなく自分の為にしたことであることに気が付いた。
その後、一連の出来事を東雲家の使用人頭の『じいや』に伝えると、
「睦月様はこれ以上ないほどの、我が当主の教育係ですな」
と楽しそうに笑われもしたのだか。
―――そんなこともあり、あの未亡人を悪く言ったりしたなら、また睦月に口を聞いてもらえなくなるかもしれない。
そう思い、ただ面白くなさに顔をしかめつつ、隣に座る睦月を眺める。
頬杖をつきながら窓の外を眺める冴えた美しい横顔。
自分がどんなに機嫌を悪くしても、いつも飄々とどこ吹く風だ。
そんな睦月が憎らしく、そしてたまらない。
許されるならば、その手を引き寄せて、強く抱きしめて唇を奪うように合わせたい。
ふと、運転手の背中をチラリと見て、
今は我慢だ。
と拳を握った。
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