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「それでだ」
場の雰囲気が一度に変わる。
迫力ある冷たい口調が、この広い図書館に響いた。
「私が独自に調査をしたところ、異変の原因らしき人物が分かった」
ほれ、と彼女はこちらへと一枚のコピー用紙を指で弾いた。
それを掴み、一通り目を通す。
「百年戦争の最中に、ジャンヌ・ダルクではない者が台頭し、結果フランスを救っている。その家柄、人柄共に無名だった者だ。彼がこの異変の鍵を握ってるのは間違いないだろう」
記事を読み進めると、その謎の人物の記述がほんの数行だけだったが、確かにあった。
「名をゴードン・ベルフェゴール。『ベルフェゴール』、聞いたことは?」
……まさかとは思うが……。
「そのまさかさ。キリスト教信者の間では悪名高い『悪魔』らしい」
にわかには信じられないような言葉が彼女の口から出る。
悪魔、だって?
「悪魔って……本気で言ってるんですか?」
「さあね。ただの偶然の一致かもしれないし、一概には何とも言えない」
「待って下さい。『悪魔』ですって? そんなの、オカルトの分野じゃないですか。貴方は無神論者だと思ってましたが」
「神を信じているかどうかと、悪魔を信じているかどうかは、あまり関係が無いと思うけどね。それに、」
そこで、彼女は一呼吸置いてから、不吉な笑みを浮かべて、
「この『得体の知れない図書館』に住む『得体の知れない女』から、これまた『得体の知れない仕事』を請け負っている君が、今更リアリティーを口にするのかい?」
そう僕に問い掛けた。
返す言葉を見つけるにはそれなりの時間がかかりそうだった。
確かに、時代をあちこち行ったり来たりして、正史に合わない事柄があれば片端から修正して回っている僕達の前では、天使も悪魔も、はたまた宇宙人だって存分に有り得る。
考えてみれば僕達自身だって、一般人から見たら十二分に「オカルティック」なのだ。
搾りに搾って、ようやく出た言葉は
「……そうですね」
の一言だけ。
完璧に論破されてしまっていた。
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