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少女は体のどこかしらに深い怪我を負っているらしく、その細い足には生暖かそうな血が伝っているのが確認できた。
("彼女"に見せてもらった本の中では、確かこの時点で目立った外傷は無かったはずだから……今回の"歪"はこれなのかな)
このままだと彼女は一時間も経たない内に出血多量で死ぬ。
それをどうにかするのが、今回の僕の仕事ってわけだ。
「怪我してるのかい? 僕、包帯なら持ってるよ。ほら、どこだい? 手伝うよ」
少女は一瞬顔を綻ばせたものの、すぐに首を小さく、弱々しく横に振る。
その一連の動作の意味が僕にはすぐ分かった。
ああ、そうか。
この女の子は僕のことを信用出来なくて――それ故に怖がっているんだ。
無理もない。こんな息の詰まる時代に生きていれば。
「あ、いや、ごめんよ。今のは僕が悪かった。……でも、傷は早めに処置しないと駄目だよ。包帯はここに置いてくね。あ、そう。この小瓶の中には聖水が入っていてね。染みるけれど、傷口に塗れば流行り病にかかる可能性はグッと下がる。これも置いてくから」
僕が座っていた切り株の上に鞄から取り出した包帯と聖水の入った小瓶――本当はただの消毒液なのだが――を置く。
少女はなにか奇怪な物を見るような眼差しをしているが、あえてそれには触れないことにした。
確かに他人から見たらただの怪しいおせっかい野朗だろうけど、これが僕の仕事なんだ。しょうがないじゃないか。
「それと、あっちには教会があるよ。奇跡的に無傷だったから、神の御力って奴は本当にあるのかもね。君も行ってみるといい」
それじゃ僕はこの辺で、と片腕を上げながらその場を立ち去ろうと背を向けた時だった。
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