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「お兄さんは……どうしてこんな事をしてくれるの?」
それは背後で困惑している少女の声だった。
それは、人の優しさに初めて触れたかのような小さな声だった。
振り向いてからしゃがみ込み、少女と目線の高さを合わせて僕は言う。
「これから困ってる人を見たら助けなさい。僕がしたように。いいね?」
出来る限り優しい口調で。
今度は深く頷いてくれた。
彼女はボロボロに千切れた服の裾を掴みながら、ありがとう、と呟いてくれた。
何度も、何度も頷いてくれた。
「それから最後に」
僕は立ち上がりながら確認を取る。
これで人違いだったなら、意外に笑えないが――そんな事は無いな、と薄々気づいていた。
「君の名前を聞かせて欲しいな、可愛らしいお嬢ちゃん」
少女がきょとんとした目でこちらを見る。
そうしてからゆっくりと口を開き、笑顔でこう答えた。
「……ジャンヌ・ダルク。ジャンヌ・ダルクです」
僕の予想は間違っていなかったらしい。
「そっか。ありがとう。……じゃ、ほら、君はもう行きなさい」
教会のある方向を指差す。
少女は包帯と小瓶を両手に抱えながら、僕の指が示す方へ走っていった。
何度も途中で振り返っては、ペコペコと頭を下げて。
あんまり嬉しそうなものだから、こちらもつられかけるような笑顔を浮かべて。
さて、これで仕事も終わっただろう。
そろそろ"彼女"から連絡が――
『ご苦労。"歪"の修正が確認出来た。帰ってらっしゃい、司書さん』
ほら来た。
頭の中に"彼女"の声が響いた少し後に強烈な眠気が僕を襲って――。
堪らず膝から崩折れると、そのまま僕は深い夢の中に落ちていった。
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