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「君がここに来てから、感覚として数十年ってとこかな? 全く、あんなに小さい男の子だったのに、こんなにも逞しくなっちゃって……」
「生憎、体は歳を取ってないので、やたらとこじらせた少年みたいになってますがね」
溜息混じりの声を、同じく溜息混じりに返す。
こっちだって肉体的には年端の行かない少年と同じなのに、心だけは老いていくのもなんだかなあ、という感じなのだ。
知らない人には子供扱いされるし。
この書庫の中に、時間という概念は無い。
これまた彼女曰く「ここは本を読む場所であって、歳を取る場所ではないよ」だそうだ。
だから、あくまで「正常な時の流れがあった場所」で経験した感覚を頼りに、何時間だとか何年間だとか言っているだけであって、実際は一秒たりとも時計の針は動いちゃいない。
時間が唯一干渉しない場所だ、とも彼女は言っていた。
では何故、そのような神の悪戯か何かで作られた場所に僕達はいるんだろうか。
僕は生まれつきこの本棚の群れの中にいた訳じゃない。
元々はちゃんと歳を取れる世界の中で日々を過ごしていた。ちゃんと記憶だってある。
ところが、いつか何かの拍子で、この世間一般誰も知らない秘密の場所へ流れ着いた。
その時のことに関しては朧気にしか覚えていないが……。
そう、僕はある意味"事故"でここに辿り着いたんだ。
ーーだけど、彼女は?
彼女は、僕が初めてここに来た時には既に、ここで優雅に紅茶を嗜んでいた。
彼女はいつからここにいたのだろう。
ひょっとして生まれた時から?
でも、だとしたら歳は取れないはずだから、彼女は今でも赤子のはず。
魔法か何かで姿を偽っているのだ、とも考えられなくはないが(実際に彼女は、時折魔法としか考えられないようなことをする)、結論の導き方としては少し乱暴だろう。
ということは、彼女も元々は外の世界にいたのだろうか。
以前、その折を聞いたことはあるのだが、あの時もはぐらかされて終わったんだっけ。
つまるところ、僕に教える気は更々持っていないのだ。
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