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「で、どうでしたか、さっきの。これにて任務完了でいいんですか?」
もっとも最近では、僕も彼女の素性を知る事は諦めている。
なんだかんだこの紅茶好きの麗人は、(自分について以外のことだけだが)僕の質問や疑問に全て答えをくれるのだ。
恐らく今はそのタイミングじゃないのだ。
「んー…それなんだけれど」
困り顔で彼女は前髪を指に巻きつけては解く。
「君、ジャンヌ・ダルクの逸話は知っているね? 百年戦争だよ」
突然何を言い出すかと思えばこれだ。
知っているもなにも、さっきの仕事前にたっぷり聞かせてくれたじゃないか。
百年戦争。
発端は、フランスの王侯貴族の母を持つイギリス王が、フランスの王位継承権を主張したところによる。
当時、イギリス軍は長弓兵を数多く保持しており、世界でも指折りの軍事力を有していた。
一方、フランスは、ペストの流行や農民反乱などで荒廃。
あっという間に南西部をイギリスに略奪され、国を獲られるのも時間の問題かと思われた頃ーー。
神からの啓示を受けた乙女が現れた。
それが、ジャンヌ・ダルク。
彼女は、今までの戦の定石を打ち崩すような大胆不敵でいて鮮やかな戦術を用い、国を救った。
「救世主」。
そう崇められたのも束の間、その後あまりの活躍ぶりに目を付けられ、異端審問で「魔女」として裁かれてしまうのだが……。
「うんうん。そこまで分かっているならよろしい」
腕を組んで、満足そうな顔で彼女は頷く。
「それでさっきの仕事の目的は推測するにこうですーー予定外の事故で傷付いたジャンヌ・ダルクを助けて、正史のレール上に再び彼女を乗せること、でしょ?」
それを聞いて、更に彼女は笑みを深くする。
「よしよし、良く分かったね。感嘆せざるを得ないな」
「さっき言ったばかりでしょ、『板に付いてきた』って」
皮肉と溜息を交えて返答する。
でも、それなら先程の仕事っぷりは完璧だったはずだ。
傷の手当てはジャンヌ自身がしただろうし、それとなく神の啓示を受けやすそうなーー独断と偏見だがーー教会の場所だって教えた。
なのだが、どうも目の前の美女の様子からすると、僕の仕事はまだ終わってないらしい。
一体どういうことだろう。
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