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しかし彼は、困ったような笑みを浮かべているだけだ。
「……はは。それはまた、別の問題でしょう。羽村は優秀です。彼女にも、彼女なりのやり方が……」
「でもっ……!」
まだ、羽村澪をかばうの?
あなたは私の味方でしょう?
私はもう一歩、長瀬恭へと踏み込んだ。
手を握り締めながら、思い詰めた様子を装うことも忘れない。
「長瀬さんなら……長瀬さんとなら、きっと、もっと上手くいったはずなんです……!」
そうよ。あの女さえ邪魔しなければ、もっとスムーズだった。
誰にも邪魔されずに世界を塗り替えることができた。
全てはあの女のせい。
ふつふつとわき上がる苛立ちが、声に表れてしまう。
「羽村さんが優秀な方だったとしても……私は長瀬さんの方が……」
「……御園さん、落ち着いて」
「長瀬さん……!」
なだめる長瀬恭の声に顔を歪めながら……今がチャンスだと判断した私は、彼の胸へと倒れ込んだ。
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