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遠慮がちに、けれど必死さを表すその指先に力を込めて。
長瀬恭の腕へ、胸へ、その手を伸ばした。
きちんと受け止めてはくれているけれど、長瀬恭は抱きしめ返してはこない。
もちろん、引き剥がしもしない。
私は彼の動きを、突然のことに反応できていないのだろうと解釈した。
きゅっと、指先に力を込めた。まるで彼の体しか頼るものがないかのように。
……上手くいったわ。
無防備な、涙混じりのスキンシップ。
これが男女間の関係において、どれだけの役割を果たすことか。
少しの間をおいて、長瀬恭の喉が震えた。
「御園さん、落ち着いてください」
「……っ、でも……っ」
彼のシャツを握る私の声は、切迫したようにしか聞こえないはずだ。
我ながら完璧だと褒めてあげたいくらいだわ。
……と、満足している私の肩に、長瀬恭の手が触れた。
抱きしめ返してくれるのかしら、だとしたら幸いね。
なんて思惑は、あっさり外れてしまった。
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