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サエは自分の部屋でひとり、眠り人形を抱いていました。
それは母親が子にするような深い愛情を示す抱き方ではありません。
むしろ犬や猫などの愛玩動物に接するときによく似ていました。
なぜならサエは母親に抱かれた記憶が一度もなかったからです。
「お姉ちゃんはズルいな。私より可愛くて、学校の成績も良くて、パパとママにいっぱい褒めてもらえて……」
サエはイチゴのショートケーキが好きでした。
チョコケーキが好きなのは姉のリエです。
サエが欲しかったのは限定品のピンクの手帳でした。
ピンクの手帳は大人気で売り切れていましたが、リエは手帳が売り切れる前に父親に買ってもらっていました。
試験で百点を取ったご褒美でした。
「サエ、明日は私の友達が家に来るの。分かっているわね」
リエが部屋に押し入りました。
「いつも通り『仲良し姉妹』のふりをするのよ。あんたが欲しがっていたお人形をあげたんだから、言うことを聞いてちょうだい。いいわね?」
サエはこくりとうなずきました。
カタカタと音を鳴らす眠り人形。
人形は元々、リエが誕生日プレゼントにもらったものでした。
リエには、人形はサエの膝の震えが伝わっているように見えましたが、本当は人形が自分で震えていました。
それを知っていたサエは、余計に恐怖で膝が震えてしまうのでした。
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