甦る悪夢

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…その時、彼は見たのである。 張輿に乗せられた男が1人。4人の兵士によって担がれ、静々とこちらへ向かって進んで来るところを…。 男は、公家であった。黒の烏帽子と、黄土色の無欄直衣を身につけている。 うなだれた顔は、心なしか青ざめて見えた。 その、葬列の如き厳粛さ…。いや、事実それは、死の行進だった。 彼は、ハッとなった。 間違えるはずもない。夢にまで見たあの方が、今、目の前に現れたのだ。 人の気配に気付いたのだろうか。公家は、サッとばかりに顔を上げ、前方を見やった。端正な顔立ちが、花曇りの空の下に、白く映えた。 とたんに、驚きの色が走った。ショックが、大きかったせいだろう。目は大きく見開かれ、声も出せずにいる。夢か現か…、数メートルと離れぬ所に、彼が立っていたからだ。 彼は、走りだした。まるで、大きな力に引きずられるかのように…。 こけつまろびつも、霧の如く消え失せてしまうのを恐れでもしたのか、列の真っ只中へ駆け出して行ったのである。 しとどの汗が、体中から流れ出た。 が、かまっている暇など男にはなかった。走りながら、彼は叫んだ。 「…俊基様っ…!」 「助光…っ!」 ほとんど同時に、公家も叫んだ。というより、喉の奥から、絞り出すような声が漏れた、と言った方が適当かも知れぬ。 差し伸べられた右手は、さながら、彼に救いを求めるようでもあった。 2人は、ひしと互いの手を握りあった。滂沱する涙を、拭こうともしない。 死ぬ間際に、化粧坂で再会できた喜びを、彼らは、しかと噛みしめた…。
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