第1章 蠢動(しゅんどう)

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天地鳴動起こる時、 日の本といふ國に 大いなる禍(わざわい) 降りかかりける。 …遠くで、微かに音が聞こえる。ピコンピコンという、奇妙な音だ。彼には、それが何の音か解らなかった。今だかつて、聞いた覚えがなかった。 例えあるとしても、思い出す事はできなかった。 暗い。異常なまでに、暗かった。光すら届かぬ、黒い世界。そんな表現が、妥当だった。 「…さん、わかりますか?」 暗闇の遥か彼方から、若い女性の声がした。 「終わりましたよ。」 再び、女性が呼びかける。 「…さん?」 …と、今度は、頭上でやはり若い男性の声がした。 「…さん、わかります?…終わりましたよ。…さん。」 “終わった?何が…?” 取り戻しつつある意識のなかで、彼は、ぼんやりと考えた。 何が、終わったのだろう。私がどうかしたと言うのか?それに、…さんとは誰のことだ? 再び、深い眠りに墜ちかけた時、ふいに、声が聞こえた。別の、まだ若い男の声だった。 「…助光。助光っ!目を…、目を開けよ、助光…!」 それは、耳に、というより、直接脳内に響き渡る感覚だった。 そかしい声。知っているはずもないのに、…ああ、これは…誰であったか? 瞼が、動く。目を開けようと幾度かしばたいた瞳に、一筋の光が射し込んだ。光は、とてつもなく眩しく、目を開けてはいられないほどに、思われた。 やがて、光の筋は全身を覆うほど大きくなっていた。
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