第1章 蠢動(しゅんどう)

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少年が、 「あっ…!」 と、声をあげるのと助光が飛び起きたのが、ほとんど、同時だった。 「急に動かれては、なりませぬ!」 少年の言葉に続いて、 「気がついたか。」 声をかけてきた者が、いた。落ち着いた雰囲気の、男性だ。 目の前に、直衣姿の青年公卿が座していた。年は、25?26歳。助光らの主・日野俊基だった。 傍らには、牛童(うしわらわ)の少年がいる。 牛童とは、牛車を牽く牛を飼い、牛を操る者の呼称である。 手に手綱と鞭を持って牛を統御し、乗者を快適に運ばねばならない。この場合、乗者とは、主の俊基や俊基の妻子だ。 頭部は垂れ髪の、童子姿。水干や狩衣を着用し、草鞋を履く。若者から老齢者まで、実にさまざまな年齢層である。 獰猛かつ巨大な牛を統御するには、童の持つ、霊力や呪的力が期待された。 ゆえに、成人後も童形(どうぎょう)の姿をし、犬男丸、子犬丸、黒雄丸などの名が付けられたという。
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