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“……!?”
「…俊基…様?…夜叉丸?」
何がどうなったのか解らず、助光は面食らった。
果てしなく続く、怖い夢。決して、終わることのない悪夢。幾度となく繰り返される同じ夢を、とりとめもなく見続けてていた…。そんな気がした。
「…ここは?」
「牛車の中に、ございまする。」
すかさず、牛童の夜叉丸が返答した。
“…牛車…だと…?”
助光は、我が耳を疑った。
下級武士にしか過ぎない彼が、牛車の中に居る。しかも、夜叉丸まで…。それは、あり得ぬ事態だった。
が、その時になって、助光は、自分がやけに居心地よい格好で、寛いでいることに気がついた。
ふんわりと座り心地の良い敷物。立ち上がったり、牛車が揺れた際に大変便利な、固綿で丸みをつけた脇息。
細部にまで、綿密な意匠を凝らした天井。そこから、持ちやすそうな綾綿の紐がぶら下がっている。
力強く、安定した歩みを約束する、大柄で丈夫な体つきの牛。
防水・防腐用に柿渋が塗装された、人の背丈ほどもある木製の頑丈な大車輪。
黒く塗られた網代車には、極彩飾の菊の花と流水模様が、施されている。どこまでも回転していく、無限の連続性の動きを表現したものだ。
葵、橘、藤、桜とともに多様に意匠化され、着物、能装束、硯箱、屏風などに好んで使用されている。
牛車が、こんなに乗り心地の良いものだとは、知らなかった。
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