8人が本棚に入れています
本棚に追加
「暑気を受けたそなたを、介抱してくれたのだ。
礼を、申せ。」
俊基が、穏やかな口調で口添えをしてくれる。
助光は、違和感を覚えた。己自身、全く記憶がないからだった。
“…疲れているのか?”
そんな考えに耽っていると、夜叉丸が、
「はや、出仕の刻限にございます。
あまり、遅うなられましては…。」
俊基に、直(午後の勤務)が差し迫った旨、促している。
「左衛門尉殿は…」
“……!?”
「いかがなされまするか?」
助光には、牛車の護衛に付くか尋ねてきた。
「言うまでも、無きこと。」
無意識に、ふたつ返事で、了承する。漠然とだった。が、彼の胸中には、ある鬱々とした感情が渦巻いていた。
主君・俊基を失ってしまう強迫観念だ。
振り払っても、振り払っても…、幾度となく脳裏にこびりついては、甦ってくる思考。声。残像。恐怖。不快感。
説明のしようがない無常観が、沸き上がる。
それは、夢で味わう心持ちの気持ち悪さに、酷似していた。
最初のコメントを投稿しよう!