第1章 蠢動(しゅんどう)

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「暑気を受けたそなたを、介抱してくれたのだ。 礼を、申せ。」 俊基が、穏やかな口調で口添えをしてくれる。 助光は、違和感を覚えた。己自身、全く記憶がないからだった。 “…疲れているのか?” そんな考えに耽っていると、夜叉丸が、 「はや、出仕の刻限にございます。 あまり、遅うなられましては…。」 俊基に、直(午後の勤務)が差し迫った旨、促している。 「左衛門尉殿は…」 “……!?” 「いかがなされまするか?」 助光には、牛車の護衛に付くか尋ねてきた。 「言うまでも、無きこと。」 無意識に、ふたつ返事で、了承する。漠然とだった。が、彼の胸中には、ある鬱々とした感情が渦巻いていた。 主君・俊基を失ってしまう強迫観念だ。 振り払っても、振り払っても…、幾度となく脳裏にこびりついては、甦ってくる思考。声。残像。恐怖。不快感。 説明のしようがない無常観が、沸き上がる。 それは、夢で味わう心持ちの気持ち悪さに、酷似していた。
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