第1章 蠢動(しゅんどう)

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やがて牛車は、ゆるゆると、滑るように動き始めた。 牛童は手綱をとり、鞭を持つ。牛の横に沿って、牛同様の速度で歩んでゆくのである。 乗者の召具装束は、位に応じたものだ。 牛童もこれに合わせ、白張・狩衣・水干など主家の出行に相応しい装束を、着用しなければならない。 付き従う者は、牛童だけではなかった。俊基の家では、牛車の左右を守護する者がいる。その彼らまで、美々しく着飾ってお供するのである。 夜叉丸のように、特定の貴族の専属の場合、牛車は当然、私的なものとなる。 各邸内の車宿に入れられ、牛は牛屋に、牛飼は、これに隣接する場所で寝起きして、牛の世話をする。 ゆえに、牛車や車宿は、屋敷の正門近くに設けられていた。 ただ、牛の所有には、費用と手間が相当かかるため、名門貴族でも、私用の一頭を頼みにしていたらしい。
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