第1章 蠢動(しゅんどう)

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京の春。 雪が溶けだし、山々の緑が芽吹く頃。ようやく、空気にも温もりを感じる。 草花は、優しく風に靡き、雲雀(ひばり)や鶯(うぐいす)たちは、楽しげに春を告げる。 なめらかなそよ風が、頬を撫で、ほつれ髪を弄ぶ。 “春は、優しい。” と、助光は思った。 言語を持たぬ牛さえ、気持ち良さげに、耳を動かしている。 助光の直垂の袴が、戯れな風の巻き上げを食らっても、かえって、心地よいくらいだ。 気候が、不安定なのかも知れない。外気温が、高くなり始めていた。 俊基の邸から、京都御所へは北方面に20数分。 ゆったりとした徒(かち)にも関わらず、皆、一様に、うなじに汗をかいていた。 「助光。大事ないか?」 心配しているのだろう。俊基が、長物見から顔を覗かせた。 「はっ。特に…。」 笑みを浮かべ、頷くのが見える。顔色も、だいぶいいようだ。 俊基はひと安心したらしい。笑顔を返し、前簾へ向き直った。
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