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京の春。
雪が溶けだし、山々の緑が芽吹く頃。ようやく、空気にも温もりを感じる。
草花は、優しく風に靡き、雲雀(ひばり)や鶯(うぐいす)たちは、楽しげに春を告げる。
なめらかなそよ風が、頬を撫で、ほつれ髪を弄ぶ。
“春は、優しい。”
と、助光は思った。
言語を持たぬ牛さえ、気持ち良さげに、耳を動かしている。
助光の直垂の袴が、戯れな風の巻き上げを食らっても、かえって、心地よいくらいだ。
気候が、不安定なのかも知れない。外気温が、高くなり始めていた。
俊基の邸から、京都御所へは北方面に20数分。
ゆったりとした徒(かち)にも関わらず、皆、一様に、うなじに汗をかいていた。
「助光。大事ないか?」
心配しているのだろう。俊基が、長物見から顔を覗かせた。
「はっ。特に…。」
笑みを浮かべ、頷くのが見える。顔色も、だいぶいいようだ。
俊基はひと安心したらしい。笑顔を返し、前簾へ向き直った。
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