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「助光よ。今のうちに、思う存分喜びをかみ締めるがよい。」
大神の、包み込むような優しい声が、助光の胸に心地よく響く。
「しかし、忘れるではないぞ。
そなたは、只ひとつの魂を呼び戻したいがためだけに、とりわけ、時の逆行と、他の亡者の魂さえ甦らせるという重罪を、犯した。」
彼は、さらに言葉を続ける。
「代償は、そなたの寿命…。したがって、天寿を全うできる可能性は皆無となる。
ここでの記憶は、何も残らぬ。
主を救うために与えられた機会は、1度きりだと言う事…。努々、忘れるなよ。」
「はい。」
「意義なくば、こちらの契約書に御名を…。」
契約書には、びっしりと規約が、記述されていた。
「署名」の余白部分に、さらさらと名前が書かれる。
後藤 助光
それが、男の名前だった…。
墨汁の文字は紙面から浮き上がり、一瞬にして、消滅した。
契約が、成立した証しだった。…
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