一年前の文化祭

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嫌われたいのに構って来るのも変な話だ。 嫌われたいから、そう思われるように構うのかも知れないが、コイツのやり方はおかしい。 ちなみにこのおかしいには滑稽さと怪しさ両方の意が含まれる。 「永塚、聞いちゃってる?」 無視していると、痺れを切らした向こうが顔を覗き込もうとして来る。 溜め息を吐きたくなった。 甘過ぎるだろう。 今のコイツの行動は素だ。 日頃からずっと俯いていると言うのに……顔、見られたくないんじゃないのか。 本人は全く気付いてないが、顔を覗き込むなんて事をすれば、顔が丸見えになる。 バカか。 「……聞いてなかった。悪いな、興味がなかったんだ」 それとなく返事をして、佐伯から顔を逸らす。 「んー……俺になのか、今の話なのか、それにちょっとドキドキしちゃうけど、きっと今の話の事だよねー」 「……」 今、物凄く顔を俺に見られたと言うのにこのバカは平然としている。 それにしても、この顔で根暗キャラとなると、よっぽど目立ちたくないんだろうな。 何で俺に対してだけその根暗キャラで接しないのか引っ掛かる点もあるんだが。 「……、」 「ど、どした、永塚。閃いたみたいな顔しちゃってるよ?」 ああ、嫌われたいからか。 何時もの他の人間への根暗キャラで行けば、俺は此処まで嫌悪感を感じないだろう。 ……何と言うか、全てが計画的過ぎている。 「気持ち悪いな、お前」 「……おおうっ、急にディスりますねー」 「如何だ。いっそ、死んで来たら」 「そんな笑顔で言っちゃダメだぞ。それでもし、俺が死んだら、如何しちゃうつもりすか。って言うか、ちゃんとお葬式、来てくれる?」 「ああ。行ってやっても良い」 「わあ、永塚が優しい…………って、俺、死なないよ?」 どうせ、嫌われたいならこんな寒いキャラよりも、もっと何かなかったのかと言いたい物だ。
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