古代の庭①

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考えているうちにいつの間にか二階へと上がったオレは、いくつものドアが並んでいる廊下に出た。 どの部屋だろうか、片っぱしから開けていくわけにもいかず廊下を右往左往していると奥のドアが開いた。 出てきたのは火山にいた水使いの女性。 オレが鬼丸で斬った西山怜香だ。 「あ……あの、」 『あら、蓮くんじゃないっ!』 蓮……くん? てっきりオレの姿を見て怯えて逃げだすか、逆に怒り出す事を覚悟していたのだけれど。 そそくさと怜香はこっちに近寄ってきて、両腕をオレの左腕に絡みつけた。 む、胸が当たってる……。 さらに体をオレに預け耳元で囁(ささや)いた。 『あんなに攻められたの初めて。蓮くんに斬られて私――ゾクゾクしちゃった。現実世界じゃあんなプレイできないもんね……』 ――プレイ!? な、何を言っているんだこの人……。 『また仮想空間に行く事があったら、お願いね』 「ちょ、ちょっと……あの……」 うっとりとした表情の怜香を腕から引き離す。 斬られて喜ぶとか――そっち系の人だったのか。 「あの、西山さんの具合が悪いって聞いて……」 『あ、直樹? ただの風邪よ。私の水を何度も浴びてたからね。お見舞いに来てくれたの? ふーん、あの時の鋭い目と違って優しいんだ……そのギャップがまた素敵ね』 ギャップとか、何か物凄く勘違いされている気がする。 この人と二人っきりだと怖いので奥のドアへと逃げるように進んだ。 「失礼します……」 部屋に入ると可動式ベッドの上体を起こし本を読んでいた男がオレに気がついた。 『お、お前、鷹山か!?』 「はい、き、昨日はすいませんでした」 『この野郎、よく顔を出せたなっ!!』 今にも飛び出してきそうな勢い。 殴られるのを覚悟でオレは深々と頭を下げた。 『――なんてな。いいよ別に、俺もたくさんのプレイヤーを倒したんだし。怒れた義理じゃない』 オレの背後で胸を押し付けている怜香が口を開いた。 「そうよ、兄さんが弱いのがいけないのよ」 それを聞いた直樹という人物は笑いだした。 仲のいい兄弟なんだな。 この二人のおかげで心につかえているものが取れたような気がした。
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