籠城作戦

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「いたわっ!」 息を切らせながら階段を上ってきたのは美咲さん。 「この音声案内同行システムなんとかならないの!? ずっとポルンと一緒だなんて絶対嫌っ!」 僕達のチームはSランクに昇格した。 音声案内チップを集めるミッションをクリアしたので、美咲さんはポルンを同行することができる。 当然、怒るだろうとは思っていたけれど。 「チームリーダーしか装備できないからね。我慢するしかないよ」 「じゃあ、変更しなさい。今から哲二がリーダーよ。"哲二とその下僕たち"にすればいいわ」 「変更不可って知っているでしょ。それに僕はリーダーに向いていないよ」 「はぁ!? 何いってんのよ、アンタが全部作戦立てたんじゃない。私にはこれを指揮するなんて絶対無理だわ」 作戦を立てて指揮するのはリーダーの仕事ではない。 参謀役がやればいい。 リーダーは仲間を鼓舞して士気を高められる人物が適している。 「それにポルンの情報収集能力は凄いよ。他チームの音声案内と会話させてもらったけれど、通り一遍の答えしか返ってこない」 「そのほうがいいじゃない」 「そうかな。自由度があるって凄いことだよ。機械にはない人間にしか許されていない機能だから」 「じゃあ、哲二はポルンが人間だっていうの? 馬鹿げているわっ!」 「そうは言わないけれど……」 確かにトナカイのクセに誰よりも人間クサイというか、親父クサイというか……。 「それに馬鹿げていることなら、もう見慣れたでしょ」 僕はそう言って美咲さんに微笑むと、それ以上は追及してこなかった。 彼女が最初からポルンを連れていくつもりだった事を僕は知っている。 視線を街の外に移すと、先程とは違った小さな声で美咲さんは呟いた。 「ねぇ、哲二。勝てると思う?」 「……勝つよ。僕の頭の中に描かれている未来では皆が笑っている」 「分かった。私はアンタを信じているから。 柚葉がご飯できたって言ってるから早く戻ってきて」 栗色の長い髪をなびかせ美咲さんは足早に戻っていく。 ――即答できなかった。 僕は"勝つ"という言葉を発するのに一瞬だけ躊躇った。 どれだけ策を講じても拭いきれない不安。僕の作戦が失敗したら多くの人が死ぬ。仲間を失うかもしれない。 ネガティブな考えが何も生み出さないことを頭で理解していても考えてしまう。 駄目だ。 まだ、時間はある。ギリギリまで策を練るんだ。
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