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相手はSランクのボス、何が起こるか分からない。
私は頭蓋骨を粉々になるまで破壊した。
「も、もう大丈夫だろ……」
「アンタこそ大丈夫なのっ!?」
ふらふらと立ち上がった修司は、槍を地面に差しながら両軍へ向けて歩き出している。
頭上のHPバーは残り僅(わず)か。
ボスに勝ったのにおかしいわ。いつもならどんなに疲れていたって、馬鹿みたいにはしゃぐ男の口数が少ない。
【ホワイト・ミスト】発動。
私は習得したばかりの上位回復スキルを修司に向け放った。
白いオーラが霧の様になって傷ついた部分を修復していく。
「お前も回復スキル覚えたんだな、助かるわ」
「……何があったの?」
歩みを止め、一呼吸の間を置いてから修司は話し出した。
「……チェンが、死んだ。……俺様の目の前で死にやがったんだ」
嘘――あんなに強かったチェンが死んだ。
私はすぐに美月を思い浮かべた。チェンは修司にとって兄のような、ライバルの様な存在。
だから様子がおかしいのね。
私には痛いほど、修司の気持ちが分かった。
「行くぞ」
私の回復スキルでは全快には程遠いが、普通に動けるようになった修司はプレイヤー軍のほうに槍を構えた。
「待って……」
あの時、私は潰れそうだった。
心の奥底を知っている数少ない人物を失って。
今私が修司にしてあげられる事、それは……。
「チェンさんは死んでなんかいないわっ!!」
「――なっ!?」
驚きの表情で振り返った修司に私は言葉を続けた。
「ゲームでしょ?
私達がクリアすれば救出できる。
――ただそれだけよ。
死んだとか思っている時間があったら特訓しかねー、違うのっ!?
七転抜刀は嘘だったの?」
忘れる筈などない台詞。
美月を失った時、この真っ直ぐな言葉で私は救われた。下を向かずに前を向く事ができた。
だから修司、乗り越えて……。
「お前……」
「私は、何度転んだって立ち上がれるわっ!」
――ドンッ!!
修司は強く握ったグングニルの柄を地面に打ち付けた。
そして、溜まった液体がこぼれないよう天を仰ぎ、叫んだ。
「俺様は、
――前に進むぞっ!!」
【エア・ステップ】発動。
【蒼天爆手】発動。
前を向いた修司は勢いよく空を駆け出した。
私だって乗り越えられたんだから、アンタならきっと……。
西門――10:45
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