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私はアーツから離れながらPDAを取り出した。
受信ボックスにはポルンからのメールが。本文も読まずに添付アイテムをチケット化した。
――チャリーン!!
小銭が地面に落ちたような音。
嫌な予感がする。
≪46000GPを支払いました≫
画面にはそう表示されていた。
こんな時にアンタ……。
怒鳴っている時間などない、私はすぐにチケットを破った。
現れたのは赤を基調としたどこにでもあるようなスプレー缶。表面にはドクロのマークが大きく描かれていた。
≪それをアーツに吹きつけろ! 五分間相手の物理攻撃力を無効にする優れ物だ≫
そんな都合のいいアイテムが……怪しいわ。本当に大丈夫なのかしら。
【飛燕斬(ひえんざん)】発動。
私を追いかけてくるアーツからオーラで出来た無数のクナイが放たれた。
立ち止り、グラネルの能力を開放して攻撃の軌道を逸らしながら、アーツに急接近。
≪チャンスだ、いけっ!≫
左手に持つスプレー缶のプッシュボタンに指をかけた。
広範囲に広がる霧なら当たるはず。
私はアーツの一撃を回避し、すれ違いざまにスプレーを吹き付けた。
顔部分と胸元に噴射された赤い霧。目に入った筈なのに、アーツはレイピアで私が持つ缶を正確に切り裂いた。
何の薬剤か知らないけれどかける事には成功した。すぐに壊されてしまったので分量が足りているか不安だわ。
≪よしっ! 大丈夫だ、少しでも薬剤がかかれば15分後には効果が現れるからな!≫
15分後……。
――首を締めたい。
今すぐこのトナカイの首を絞めて息の根を止めたい。
「15分もアーツから逃げれる訳ないでしょ、それまでどーすんのよっ!」
≪……あっ……そ、そこはほら、あれだ、美咲さんのお力で何とか……≫
「何とか出来ないからアイテム使ったんでしょっ!」
――ザシュッ!!
左肩口に鋭い痛みが走る。
完全にアーツの間合いに入ってしまった。
連続的な攻撃を回避するが、小さくなったグラネルでは受け切れない。
距離を取ろうとバックステップしても、すぐさま間合いを詰められてしまう。
≪いい、今、なんとかするから……≫
もう、アンタには期待しないわ。
私はポルンへの怒りを抑えられないまま、グラネルを強く握り締めた。
青白い刀身が真っ赤に染まり伸びていく。
あら……怒りの想いでもいいのかしら?
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