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『わがっだ。オラをこの船から降ろしてけろ』
「アルトッ! いい加減にしなさいよっ!」
私の怒鳴り声がミーティングルームに鳴り響いた。
雷斗さんは哲二に指揮官を任せたからなのか、黙ったまま。
パトリシアさんでさえも、雷斗さんに追従して何も言わない。
私はアルトを参加させることに反対だ。でも、これだけ強い意志を持つこの子の想いをを握り潰す事もしたくない。
相反する気持ちで私の心は揺れていた。
哲二だってきっとそう。指揮官という立場にいる以上、心を押し殺し非情になるしかないんだわ。
ミーティングルームには重たい空気が流れている。
「アルトさんの気持ちはよく分かったよ」
沈黙を破ったのは哲二だった。
「でも、条件を満たさない限り連れてはいけない。指示に従えないのならノアから降りてもらって構わない」
『…………。』
それを聞いたアルトは私達に背を向け出口へと向かう。
「待って。これ貰い物だけど、僕からの餞別」
歩きながら哲二が取り出したのは、ムッキーが運営に潜入した時に貰ったチケット。
哲二……アンタ。
私は自分の表情が綻(ほころ)ぶのを感じた。
これはレベルを50も上昇させるチケットだ。アルトがレベルを200まで鍛えてから使えば、条件のレベル250を簡単にクリアできる。
なによ、哲二。アンタも甘いわね。
『て、哲二ざん……』
目に大粒の涙を浮かべたアルトはそれを両手で仰々しく受け取った。
それをアーツは横で目を細めて眺めている。
私は行かせたくない気持ちに変わりはない。でもアルトが自ら考え下した決断よね。
結果的に身内贔屓(みうちびいき)かもしれないけれど、それはこの子が自分で勝ち取ったものだから。
この子は強くなるわ。
今までの戦いで、覚悟を決めた人間が強い事を私は知っている。
「それでは本題に入ります。まずは資料1から……」
哲二も他のメンバーも何事もなかったように会議をすすめた。
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