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レイドの装備するスナッチソードは命を奪うと一日若返るという効果を持つ。
初期世界に存在しない希有なアイテムも、エタンセルには山ほどあることだろう。
中にはその効果を打ち消す、または元に戻すアイテムがあってもおかしくない。
奴はそれを使ったんだ。
でも、おかしい。
成長は、レベルや強さと関係ねーだろ。
まだ"何か"を見逃し……
≪ギャハハ!! 頭でっかちになるなよ、腹くくるんだろ? 早く行こうぜ、あいつは強いぞっ!!≫
柄から伝わる典太のテンションはかつてないほど上昇している。
ったくよ、お前に諭(さと)されるとはな。
でも、典太の言う通り考えたって、そりゃ無理だわな。
俺が持っているのは初期世界の概念。
ここでの常識がエタンセルから来たレイドには通じない。
だからこそ、全てを賭けて挑むだけなんだ。
俺は典太を握り締め煙幕の中に突っ込んでいった。
スキルなしの剣戟(けんげき)が続く。
シャークの攻撃に合わせ、俺は典太を振るった。
技術的には俺やシャークのほうが上だ。
キャップを外しているという条件も一緒。
だが――
二方向からの攻撃をレイドは回避し受け止め、時には打ち返す。
圧倒的なレベルの差。それを補うはずの各装備も奴のほうが数段上。
焦燥感にかられるも、打つ手がなかった。
『もう時間がねーな』
言葉遣いまで……。
俺の左から右への薙ぎ払いをスウェーで回避したレイドは、黒剣を振るう。
横一文字に振られた剣は俺の左脇腹へ。
咄嗟に典太の鞘を引き出し受けたが、勢いを殺せるはずもなく激しい痛みが脇腹から脳天まで駆け登った。
膝を付く俺の頭上から追撃が襲う。反射的に頭を反らすが、黒い剣尖が俺の胸元を大きく斬り裂いた。
≪お、おい、ゼノンッ!!≫
裂けた胸元から飛び出すのは――銀白色の水蒸気。
常温、常圧で凝固しない唯一無二の金属元素。
人体には猛毒の水銀。
体内に貯め込んだオーラを水銀に変え、傷口から霧散させたんだ。
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