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シャークは刀の鍔でレイドを強く押し、離れ際に右から左へ胴を薙ぎ払う。
さらに刀を返しながら、再び一歩前進し下方から上へと斬り付けた。
あまりにも速い一連の動き。
そんなシャークの動きに少し遅れて、紅緋色の光が剣筋をなぞるようにラインを引いていく。
ミリ単位で狙った部位は頸動脈。
レイドの首からは鮮紅色の液体が1m近くもの高さで噴き出した。
頭上のHPバーは消失。目は虚ろで、顎が上がり口を鯉のようにぱくぱくとさせながら後退していく。
興味を失った子供のようにあからさまに表情を無くしたシャークは、くるっと回りレイドに背を向けた。
手にする数珠丸の刀身は消え鍔元だけに。
得物を鞘に収める音がカチンと響くと同時に、よろよろと後方へ下がったレイドはマグマが溢れる地面の裂け目へと落ちていった。
『…………。』
ゆっくりとシャークは俺に歩み寄る。
別に俺はこいつと取引きをした訳でもねーし、共闘しているようで実際は何もしていないのと同じだ。
つまり、シャークにとって俺はただの運営でしかない。
そして、俺は今動けない。
まずいな……。
「おい、シャー……」
シャークは俺の言葉を遮る様に再び数珠丸を引き抜いた。
紅蓮のオーラがその刀身を形成している。
シャークの出した左手には白いオーラが。
【ホワイト・ヒール】発動。
【ウォーター・ヒール】発動。
傷がみるみるうちに修復され、体に力が戻っていく。
体験したことのないほど強力な回復スキルだ。
『…………さぁ、約束です。戦りましょうか』
そうだった。
シャーク・Kという男は、こいう奴なんだ。
だが、今の俺にはそんな価値はねぇ。
俺はシャークを見上げながら口を開いた。
「もう、俺なんかと戦っても面白くねーだろ?」
『……いいえ。貴方の中にある"何が何でも生きる"という感情が、とても面白い戦いにしてくれるでしょう』
俺はふら付きながらも立ちあがり、少しだけ口角を持ち上げニヤリと笑った。
「そりゃあ、その通りだ」
俺は腰元にある日本刀――大典太に手を掛けた。
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