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◆ヒカリレンサ
やぁ。アタシの名前は犬飼美鈴。
小さい頃のアタシは女の子たちがよくするような遊びはしてこなかった。あやとりや縄跳びで遊ぶ彼女たちを尻目に近所の男の子たちとサッカーをしていたものよ。
男兄弟の末っ子だったアタシは兄の古着を着せられていたせいか、よく男の子に間違われていたのだけど、小学校高学年に上がる頃にはそれなりに異性を意識して、あんまり男子と一緒に遊ぶようなこともなくなっていた。
服も兄の古着ではない女の子らしい物をと母にせがんだものだ。
そしてアタシはある男の子に恋をした。
いつも生徒達の前を歩くリーダー肌。勉強もスポーツも得意な彼は典型的なモテる男子。おまけに顔も良くて、家はそうとうなお金持ちとくれば、もはや落とすところがないように思える。
彼はアタシの幼馴染だったんだ。ちょっと前なら何でも話せたのに、その頃のアタシは奥手だったから、彼に自分から思いを告げることはなかった。
でも、アタシの転校が決まった時、素っ気なくそのことを伝えると、彼は悲しそうな表情でアタシに言ったんだ。
「トウキョウ? どこだよ。そんなところに行くなよ。お前は俺と一緒にいろっ」
そう言って彼はいきなりアタシを抱きしめたんだ。わけわかんなかったけど、きっと彼もアタシと同じ気持ちだったんだってわかったから、すごくうれしかった。
そして彼は何を思ったのか、いきなりアタシにキスをしたの。
信じられる? アタシは何も返事をしなかったのに。
驚いたアタシは恥ずかしくて、無意識のうちに彼の頬をぶん殴ってやったわ。
――それがアタシの初恋。
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