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御崎桐は自分が大好きだ
ナルシストというわけではない
ただ誰に評価させても美形と呼ばれる部類に入る自分の容姿、天才と賞賛される部類の成績、運動オンチとは程遠い部類の器用さ
そういった所からして、自分を嫌いになる理由など一切無い。
だから当たり前のように自分を誇りに思っている
自分という人間は尊敬や憧れの眼差しで見られるのが当たり前なのだ
それ故に彼はある日を境に周囲から孤立した。
完璧であるからこそ、人を見下すのが当たり前になった瞬間から孤立した。
でも別に彼は気にもしない
自分が嫌われようが恐れられようが、他人の評価などその頃にはどうでも良かった
自分が凄い人間であるというのは変わらない事実で現実なのだから
だから周囲の目など気にしないしどうでも良かった
ナルシスト、調子乗り、井の中の蛙
そんな悪口を向けられたこともあるが
雑魚が妬んでんじゃねーよ、消え失せろ
みたいな、感想しか出てこない。
そうやって周囲から孤立した人生を長いこと送っていれば、彼の自己評価は慢心の域を軽々超えた
人を見下してもいいのなら、人を人と思わなくても良い
そんな歪んだ思考が彼の中で産まれ、やがて成長して進化する
中学生の頃のあだ名は《地獄の帝王―サタン―》だ
どこぞの中二病だ、とツッコミが入りそうなあだ名だった。
でも彼はそのあだ名を気に入った
地獄の帝王、なんて良い響き
そう俺は、帝王という名に相応しい人間なのだ
彼は自分の現状に満足していた。
人を見下すばかりか、踏みつけ、ねじ伏せ、嘲笑する
そんな彼を昔のように尊敬し憧れる者は居ない
誰もが彼に嫌悪感を抱いた
恐れ、怯え、震え上がり、関わりたくないと逃げ出した
自分が≪特別≫だからこその反応だと
彼はそう考えるようになったのだ。
そうなると孤立することが楽しくて仕方が無かった
自分の言動が行動が、周囲に影響を与えて逃げ出すその様は愉快だ
高校生活を2年目に迎えた今では誰も自分に近寄らない
教師でさえ視線を合わせるのを嫌がる
桐にとっての天国のような日常だった
まさかその日常が、たったひとり女のせいで180度変わるとは考えもしていなかった。
「お前、何言ってんの?」
暫しの思考停止の後に何とか出た言葉はそれだけだった。
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