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柚子は力いっぱい首を横に振った。
(なるべく濡らさないようにしたいのに、湯舟なんか入れる訳ないじゃないの! 第一、見られたくもないけど、見たくもないわ!)
柚子は証が湯舟から上がるまで、横を向いて待つことにした。
しばらくそのまま目を瞑って横を向いていると、頬にピシャッと水しぶきがかけられた。
柚子は頬を押さえて証を振り返る。
「な、何すんのよ!」
「ご主人様から目背けてんじゃねーよ」
バスタブに頬杖をついたまま、証は不遜な口調でそう言った。
「ふ、普通は入浴してるとこなんて見られたくないでしょ!? こっちは礼儀のつもりで……」
「俺はお前と違って見られて恥ずかしい体してねーから」
「私だって別に恥ずかしい体じゃないわよ!」
胸が少し小さいだけで、欠陥品のように言われてはたまらない。
思わずそう叫ぶと、証は頬杖をついてニヤッと笑った。
「ふぅん。じゃあ見せてみろよ」
「……………え」
「恥ずかしくねーんなら見せられるだろ」
「……………っ」
柚子はぎゅっとシャツの裾を掴んで強く唇を噛み締めた。
(い、意味が違う……っ!)
何も言い返せずただ立ち尽くしていると、証は口元に笑みを穿いたまま湯舟のお湯を柚子にかけた。
驚いた柚子はとっさに体をかばう。
「ちょっと、濡らさないでよ!」
「………なんで」
「なんでって……」
楽しそうな証の顔を見て、カアッと柚子の頭に血が昇った。
悔しさで顔が歪む。
証がその顔を見たくてこういうことをするのだとよくわかっているのに、笑顔を返すほどの余裕がない。
真っ赤な顔で自分を睨み付ける柚子を見て、証はクッと笑った。
「………さて、じゃあそろそろ背中流してもらうかな」
そう言うと証はザッと立ち上がった。
とっさのことに柚子は目を逸らす間もなく、固まったように証を凝視した。
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