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だが証の腰にきっちりタオルが巻き付けられているのを見て、柚子はホッと肩を落とした。
それを見た証はニッと笑う。
「あれ、なんか期待した?」
「し、してません!」
暑さも合間って柚子の顔が真っ赤に上気する。
クスクス笑いながら証は椅子に腰を下ろした。
オロオロイライラしている柚子を見て楽しんでいるのか、機嫌は良さそうだ。
「じゃあ、始めて」
「は、はい……」
専用のタオルにボディーソープをつけて泡立てながら、柚子は証の背中に向き直った。
広い背中を前にして何故か胸がドキドキ言い始める。
男の人の裸をこんなに間近で見るのは初めてで、緊張で手が震えだした。
タオルを背中に当て、ゆっくりと擦り始める。
(………肌、真っ白。引き締まってるし、綺麗な体……。自分で言うだけあって、確かに誰に見られても恥ずかしくないわね……)
ぼんやりと考えながら手を動かしていると、証が肩越しに柚子を振り返った。
「おい、もっと力入れろよ。全然気持ちよくねー」
「え、あ、ごめんなさい」
柚子は膝立ちになって手に力を込めた。
だが緊張のせいかうまく力が入らず、柚子は歯痒くて唇を噛んだ。
その時、証の手がパシッと柚子の手首を掴んだ。
驚いて柚子は証の顔を見つめる。
「こんな手つきじゃ、風俗だったらすぐクビだぞ」
「…………だ、だって」
柚子は思わず証から目を逸らしてしまった。
「初めてだし緊張して、手震えるし……。どうすれば気持ちいいかなんて、わかんない……」
「………………」
証は黙ってしばらく柚子を見つめていたが、やがてふっと息をついて柚子の手からタオルを取り上げた。
「じゃあ、俺が教えてやるよ」
「……………へ」
「気持ちのいい背中の流し方」
唖然とする柚子を尻目に、証はいたずらっぽくニヤッと笑った。
「お、お、教えるって……」
「実地で教えたほうがよくわかるだろ。ほら、背中向けろ」
ぎょっとして柚子は自分の体を抱きしめるようにして後ずさった。
「い、いいわよ、そんなの!」
「俺がよくねーんだよ。そんなまどろっこしい手つきで洗われてもイライラするだけなんだよ」
「………………」
柚子はぎゅっと胸元を押さえて証の顔を見上げた。
嫌だと言って抗っても、抗いきれないことはよくわかっている。
これ以上拒んだら、証のイライラが募るだけだ。
(じ、冗談じゃないわよーっ!)
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