プロローグ

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野に吹く柔らかな風が頬を撫で花びらが虚空を舞う。 流れる雲をぼんやりと見つめながら青年は欠伸を噛み殺した。 平和なそこは下界の人々から桃源郷と呼ばれる場所である。 青年は官吏になるための手続きをしに内殿するようにと言付けを賜っていたが現在サボって武官の訓練を観察している最中である。 実のところ青年は官吏などにはなりたくはなかった。 故郷は桃源郷の中でも下界との境目にある貧困層の村で、地位の低い老人子供が寄せ集まって暮らしている。 村に稼ぎ手が少ない為、飢えはしないものの辛うじて食いつないでいるといった現状でそんな状態の村から放れる訳にはいかないからだ。 なので官吏の試験も落ちてさっさと帰るつもりだったのである。 しかし意と反し試験に合格してしまい、帰らぬまま官吏としての内殿が決まってしまったのだ。 何でも仙になる器量と神気があるのだとか… 官吏の試験は資質ある者は皆、強制的に受けなくてはならないという法がある為受けざる負えなかった。 育ての親が神の筈もなく、何の力の無い筈の自身が選ばれるなどおかしな話だと納得がいかない。 青年は実のところ食うに困った親を見かねて自らの身を売りこれまで生きてきた。
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