2423人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなた、証様の家で何をなさっているの。一体何者なのです?」
(………証……様……?)
困惑しながら柚子は頭の中で、考えを巡らせた。
おそらく証の知り合いなのだろうが、まさか奴隷として雇われていますなどと言えるはずがない。
「あ、あの……ハウスキーパーです」
とっさにそう答えると、女性は気が抜けたように表情を和らげた。
だがすぐに、値踏みするように柚子の全身を眺める。
「ずいぶん若いハウスキーパーですのね」
「…………はあ」
ぼんやりと柚子は返事を返した。
そんな柚子に構わずに女性は靴を脱ぎ、家の中に上がり込んだ。
慌てて柚子は女性の腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってください! どちら様なんですか?」
すると女性は柚子を振り返り、勝ち誇ったようにこう言った。
「証様の婚約者ですわ」
柚子はポカンとして目の前の女性の顔を眺めた。
頭の中でゆっくりとその言葉の意味を噛み砕く。
………婚約者。
………こんやくしゃ。
「えーっ! こ、婚約者ーっ!?」
度肝を抜かれて思わず大声を出すと、女性は煩そうに渋面を作った。
「証様から聞いていませんの。訪ねてくるかもしれないのに」
「……………………何も」
「………まあ、ハウスキーパー風情に話す必要もありませんわね」
女性は独り言のようにポツリと呟いた。
カチンときて柚子は女性の顔を軽く睨む。
だが女性は気に留める様子もなく、優雅な仕草で帽子を脱いだ。
柚子にはすぐにわかった。
そう、この女性は証と同類……要するにセレブだ。
一般人を見下す発言を悪いことだとも思わず、自然にさらりと口にする。
ちやほやされて育てられた典型的なお嬢様だ。
このテのタイプは鷺ノ森幼稚園には掃いて捨てる程いて、いずれも柚子とは馬が合わなかった。
「ところで、証様はどちらにいますの」
混乱と怒りで震えている柚子の様子など全く気付かずに、女性は柚子にそう尋ねた。
柚子は我に返り、無理やり笑顔を作る。
「あ、証……………様は、今日はお仕事です」
「まあ、ゴールデンウィークなのに?」
女性は横を向いて再び独りごちた。
「……あながち忙しいというのは嘘ではありませんのね……」
「…………は?」
「いいえ、何でもありませんわ。とにかくあなた……」
そこで女性はパッと長い髪をひるがえして柚子に向き直った。
最初のコメントを投稿しよう!