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「あの……証とは……」
珍しく言葉を詰まらせて話す五十嵐を見て、柚子はハッと目を見張った。
その顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「………やっぱり……やっぱり証、あのこと五十嵐さんに言ったんですね…!?」
「……………え」
「違うんです、あれは違うんです!」
五十嵐の言い淀む様子を見て勝手に勘違いした柚子は、慌てふためいて五十嵐に向き直った。
「証がどんな言い方したかわかりませんけど、私にはそんな気はないんです!」
「………………」
「そんな初体験だけ大人の慣れた人と、なんて割り切ったことできないですし、大人の男の人ってだけで五十嵐さんの名前を出した私が確かに軽率だったんですけど、それは五十嵐さんと初体験したいとかいう意味ではなくて……」
「…………………」
「あ、違うんです! 五十嵐さんが嫌だっていう意味じゃなくて、むしろ私には勿体ないというか……。てゆーかつまり、その………」
恥ずかしさで一方的にまくしたてていた柚子はそこで一旦言葉を切り、赤くなって俯いた。
「やっぱりそういうことは、ちゃんと好きになった人としたいです……」
五十嵐はゆっくりと瞠目した。
「それはちゃんと、証にも説明しましたから……」
訥々と柚子が語り終えたその瞬間、五十嵐はクッと吹き出した。
柚子は目を丸くする。
「あ、あのー…五十嵐さん?」
「ああ、すいません」
それでも五十嵐は肩を揺すってクスクス笑っている。
柚子は少し咎めるような目で五十嵐を見上げた。
「……私、そんなおかしいこと言いましたか」
「いえ、違うんです」
五十嵐はふっと息をつき、柚子を見下ろした。
そうして目を細めて微笑む。
それは今まで見た中で一番優しい笑顔で、柚子は戸惑って口を噤んだ。
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