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エレベーターの壁にもたれながら、柚子はぼんやりと証の顔を思い浮かべた。
(……やっぱり、婚約者とかいるんだなぁ……)
奴隷として雇われている身だし、別に対等に思っていた訳ではないが、こういうことがあると改めて証は大財閥のお坊ちゃまなのだと思い知らされる。
始めこそ怒っていたが、結局なんだかんだで柚子が証を呼び捨てにしても、タメ口でも、証は黙認しているようなところがあった。
本来なら許されるべきことではなく……。
エレベーターが一階に着いたので、柚子は我に返って扉をくぐった。
マンションを出て、途方に暮れる。
とりあえず携帯を開いてみた。
ちらっと証に連絡してみようかと思ったが、滅多なことがなければ柚子からはかけてくるなと言われている。
今のこの状況が滅多なことなのかどうか、柚子には判断しかねた。
『証様とディナーに出掛ける予定ですから』
証の婚約者とやらの言葉が頭に蘇り、柚子はイライラしながら携帯を閉じた。
(何よ、だったらそう連絡しなさいよね! 御飯作るとこだったじゃない!)
きっとこんなことで連絡しても、くだらないことで電話をするなと言って怒られるのがオチである。
柚子は溜息をついて、さて今からどうしたもんかと思案した。
閉じた携帯を再び開き、アドレスで友達の名前を物色し始める。
「…………………」
だがすぐに柚子は携帯を閉じてバッグに押し込んだ。
世間はゴールデンウィーク真っ最中。
柚子のように予定もなくフラフラしている子なんて、ほとんどいないだろう。
きっとみんな旅行やら合コンやら、何かしら予定があるにちがいない。
(…………ファミレスのドリンクバーで時間つぶすかぁ……)
妙に哀しくなり、柚子はトボトボと大通りへと足を向けた。
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