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「ほら、早く決めろよ」
「………え、あ……」
促されて柚子は慌ててメニューをめくった。
注文を終えてもしばらく二人は無言だった。
煙草が吸えないのが手持ち無沙汰なのか、証は腕を組んでじっと虚空を睨んでいる。
「………ファミレスなんかで、御飯食べるんだね」
「え?」
「もっと高いお店ばっか行ってるのかと思った」
柚子が少し笑うと、証は溜息混じりに頬杖をついた。
「ばーか、俺と陸はここの常連だぜ」
「え、そうなの?」
「お前が来る前までは外食ばっかだったからな。仕事帰りによく二人で来てたし、陸は今でも来てるんじゃねーか?」
「…………そう」
少し意外で、柚子はマジマジと証を見つめた。
聞きたいことが色々ありすぎて、何から聞けばいいのかわからない。
柚子はぎゅっと膝の上で手を握りしめた。
「あ、あのさ……証」
「何」
「………なんで……ここに来たの?」
柚子の問いに証は眉をひそめた。
「なんでも何もお前が家にいなかったからだろーが」
「………え」
「飯の用意もしてねーし、ファミレスにいるんならちょうどいいと思って来たんだよ」
「………………」
(………そ、そうだったのか)
あらぬ心配をしていたのでホッとしたのも束の間、一番肝心なことを聞きそびれていることに柚子は気付いた。
意を決して顔を上げる。
「………あ、あの……っ」
その時、注文した料理が運ばれてきたので柚子はとっさに口を噤んだ。
自然、話は中断する形になる。
二人は会話もなく、ただ黙々と料理を口に運んでいた。
端から見ていれば、別れ話をしにきたカップルのように見えたかもしれない。
結局、一言も口をきかぬまま二人は料理を食べ終えてしまった。
「出るか」
証が伝票を手にしてサッと立ち上がったので、慌てて柚子もそれに倣った。
会計を終え、店を出る。
証が何も言わずにスタスタと車に向かおうとしたので、たまらず柚子は立ち止まった。
「……………証!」
駐車場の真ん中で大声で呼び止められ、証は怪訝そうに柚子を振り返った。
「何だよ、でけー声出して」
柚子は一度息を飲み込んでから、口を開いた。
「私、あんたと一緒に帰っていいの?」
「………………」
証は黙って柚子を見つめている。
何故か涙が出そうになり、柚子は懸命にそれを堪えた。
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